忘却の空

置き忘れた傘のように、いつか、忘れられてしまうかもしれない。だけど、

忘却の空 - 記憶の欠片

2005/07/18UP

 忘れられたを見た。
 誰もいないベンチの横に立てかけられた、淡いベージュのピンドット。

 ってなんて不完全な道具だろうと、僕は忘れられたを見るたびに思う。だっては、持ち主を雨から完全には守れない。地面を跳ね返る雨は防ぎようがないし、強い風には、は簡単に吹き飛ばされる。
 なにより雨が止んでしまうと、このベンチに立てかけられたのように、忘れられてしまうような薄い存在になってしまう。

 ふいに、昔、人にあげたを思い出した。
 誕生日のプレゼントに贈った、花と
 あのはきっと、とっくの昔にどこかに置き忘れられているだろう。
 あの頃はそんなのが好きだったんだ。長く所有されることはない。そんなものがちょっとした贈り物にふさわしいって、そう思っていた。

 淋しくはない? 昔の贈り物のことを思い出し、雨上がりの空から吹いてくる生ぬるい風を感じながら、僕は心の中でに問いかけた。
 そんなふうに忘れられて、淋しくはない?
 持ち主を雨から守るために作られ、少しの間使われたかと思うと、こうして忘れられてしまう。そんなふうに簡単に忘れられることが、淋しく、辛くはないのかと。

 だけど、
「それでも自分はでありたい」
 は、きっとそういうだろう。
 それでも、自分はでありたいと。そう、そうやって誰かを守るためにだけ、自分は生まれてきたのだから。

 ベンチに斜めに立てかけられたが、雲から射し込む陽の光を受けて眩しい。僕は目を細めた。
 そういえば目の前のは、あの日僕がプレゼントしたベージュのによく似ている。あの人が今もあのを持っているとは思えないし、そもそも僕はもう、それを確かめるすべさえすでに持たない。
 誰かとの係わり合いなんてのはいつもとても不完全で、多くはすぐに無くなり、忘れられてしまう。そう、そんなところがまるでのようだった。

 昔贈ったのによく似たそのに、僕は手を伸ばしかけた。持って帰ろうと思ったのだ。
 けれど思い直し、そのの前から立ち去る。
 だってあそこに置いておけば、もしかしたら持ち主が取りに戻ってくるかもしれない。
 ――あのがまた、持ち主の手で空に向かって広げられる時がきますように。
 そんな事を、少しの間夢見た。

このページへのコメント

1 :ncはまー at 2005/07/19 21:31 [RES]

元sadsファンとしてタイトルに反応してしまいました(笑)
実は私もベージュのドットの傘使ってます。
千歳さんの言葉遣い、なんか好きです。

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Posted by 千歳 at 2005年07月18日 23:25 EDIT
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