レトルト食品が大っ嫌いな私に、母は、大量のレトルトパックを送りつけてきた。
私はレトルト食品が大っ嫌いだった。
まずいからである。
あんなまずいもの、人間の食うものじゃないとさえ思う。
正直、金を払ってまでレトルトを食べる人間の気が知れない。
そんな私は、一人暮らしの身でありながら、高いホーロー鍋セットを購入し、毎日のように一人分の手料理を作った。作るのがめんどくさい日などは外食した。
別に高級な本物の味が欲しいわけではない。毎日同じものを食うのも別に苦ではない。B級グルメで良いのだ。ただ、毎日を過ごしていく上でとても大切な時間――食事の時間を、レトルトなんかで台無しにされるのだけは、どうしても我慢がならなかったのだ。
そんなある日の事である。
母が私にレトルト食品を送りつけてきた。
私は常々母に言っていた。レトルトは食べないから送ってくれるなと。
それなのに一体全体これはどういうことだろう。私は母を電話で問いただすことにした。
「母さん、なんだよこのレトルトカレーの山は!? 俺がレトルト食わないの知ってるだろ?」
そういい募る私に母は言った。いいから食ってみろと。
うまいからと。
何を言うのだこの母は。レトルトがうまいわけはないではないか。
しかし、私の知る限り、母も決して味音痴ではない。むしろ舌は肥えてるほうのはずだった。
「…………」
まあ、いい。そこまで言うのなら食ってやろうじゃないか。
幸い、すでにご飯は炊いてある。私はホーロー鍋に火をかけた。
そして十分後、私の人生は変わった。
十年ぶりに口の中に入れたレトルトカレーが、信じられないくらいうまかったのだ。
なんだこれは!? 私は驚愕した。うまい! 正直下手なカレー専門店が出すカレーよりもうまいとさえ思う。
……つまり私は、甘く見ていたのだ。カレーなのに甘く見ていたなんて、別にそんなうまい事を言いたいのではない。
私は侮っていたのである。人間の技術力を。うまいものをもっと楽に食べたいという、人間の果てしない欲求が持つ底知れない力を!
そんなわけで母の送ってくださったレトルトカレーの虜になってしまった私は、それからは毎日というもの、そのレトルトカレーに舌鼓を打つようになった。何日食っても全然飽きなかった。母が送ってくれたレトルトの在庫がなくなったら、同じものを探しに行った。もう中毒である。
次第に、別のレトルト食品も試すようになっていった。その多くが、私の舌を満足させるのに十分な味だった。今までレトルト食品の事を馬鹿にしていた自分自身が恥ずかしい。もう将来の嫁さんが料理が出来なくても私的にはノープロブレムである。お湯が沸かせればいいのだ。
しかしそうなると可哀想なのはうちのホーロー鍋セットである。
うちのホーロー鍋はなにも、レトルト食品を温めるためだけに生まれてきたわけではない筈だった。
ある日テレビでなべやかんが元気に活躍しているのを見て、私はいたたまれない気持ちになってしまった。
うちの鍋は、きっと泣いているだろうと思うからだ。

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