免許の取得条件は、とにかく良くふられること。
また、ふられてしまった。
念のために言っておくが、女性にふられたのではない。去年の年末、実家に帰ろうとしたその日に大雪にふられ、足止めをくらってしまったのだ。去年もおととしも大事な日に雪にふられてしまった記憶があり、だから「またふられてしまった」と感じたというわけだ。
実際私はよくふられる。ふらっれぱなしの人生といってもいい。
あんまりふられるから、先日自分で『ふられる免許』なるものを作ってみた程である。
免許の取得条件は、とにかく良くふられること。私は自分自身に、この免許のゴールドライセンスを発行することにした。資格十分と判断したのだ。
実際雨にふられることなど私にとってはごく日常的なことだ。雪にも先日ふられたばかりである。今日だって同僚の小川さんに仕事をふられた。将棋を指していても、すぐ二歩(にふ)られてしまう。
そんな私のふられっぷりがまぶし過ぎ、手に届かない遠い存在のように感じてしまうのだろう。多くの女性が私と視線を合わせることを避け、出来るだけ遠ざかろうとする。そのおかげか女性にふられることも朝飯前である。
そんな私も最初からゴールドライセンスを所持できるレベルだったわけではない。ある特別なふられ方が、私をゴールドライセンスの有資格者にしたのだ。
あれは以前働いていた職場でのことだった。
当時私は本社から離れ、とある現場で働いていた。その日もいつもと同じように現場で忙しく働いていると、突然部長から連絡があった。
私に、今すぐ本社に来いというのである。
現場から本社までは、電車で一時間はかかる。時間は午後9時。正直行きたくなかったが、部長の命令とあっては仕方がない。私は皆が忙しく働いているなか仕事を切り上げ、電車を乗り継ぎ乗り継ぎ本社に向かった。
午後10時。ようやく本社に戻った私を、部長は椅子に座ってタバコをふかしながら待っていた。
「今、机の下を片付けていたところだ」
そう言う部長の傍らには、ダンボール箱が三箱、雑然と積み上げられていた。
そのダンボールの中身を私は知っていた。私が本社で働いていた頃、部長が使用済みのコピー用紙を中に放り込むのを良く見ていたからだ。
部長はダンボールに軽く蹴りを入れながら、タバコの煙をあくびするように吐き出した。そして私は仕事をふられたのである。
「裏紙が使えるものと使えないものを分けろ」
「……これ、全部ですか?」
「あたりまえだ」
それから一ヵ月後、私は会社を辞めた。
正直あまり思い出したくない記憶なのだが、それでも私はたびたび必要に迫られ、この話をする。
「前の会社、なぜ辞めたんですか?」
と、よく話をふられるのである。

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